地獄への道: フィリピン国内のダーイシュはアメリカのプロジェクト
 
2017年6月10日 (土)
Federico PIERACCINI
2017年6月8日
Strategic Culture Foundation
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
最近の一連の出来事で、フィリピンは急速に混乱に陥っている。フィリピン特殊部隊が、悪名高いフィリピンの組織アブ・サヤフの指導者と目されるイスニロン・ハピロンを逮捕しそこねたことと、一連のダーイシュ系のテロ集団によるマラウィの都市占拠のす早い作戦行動とが同時に起きた。これは、ドゥテルテ政権に対する国内、海外からの圧力のエスカレーションで、彼が外交政策を変更したことに起因している。
 
5月23日、フリピン、ミンダナオで、アジア最初の都市がダーイシュ掌中に落ちた出来事は、シリア、イラクとリビアにおけるダーイシュの作戦手法との不穏な類似を示している。500人の工作員の存在、ミンダナオ島内の様々な休眠細胞が、警察署や市の刑務所への協調した攻撃を可能にし、徴募兵士の数を増やし、その過程で、複数の火器も入手した。確認が困難な一連の出来事で、ダーイシュが都市を支配し、いくつかの検問所を設置した。2011年と2014年、ダーイシュが、イラクからシリアへと素早く拡張した、初期の対シリア攻撃から着想された戦術の作戦の組み合わせが使われた。
 
フィリピン政府と国軍は、多数の死者と負傷者を出した。そしてミンダナオの都市の支配を取り戻したとは言え、脅威に対決するために固定翼と回転翼航空機の配備と無数の地上部隊の配備が続いており、問題は残っている。
 
ドラマはアジアの国々で続き、マニラでの爆発がフィリピンをパニックに陥れ、状況の悪化に対し、当局はほとんど情報を漏らさなくなった。
 
わずか12カ月前、ドゥテルテが経済的、社会的意味で、フィリピンの再生について語ったのに、一体どうして、こういう状況が起きたのだろう?
 
筆者は12カ月前に記事を書いたが、そこで説明したことは、ドゥテルテの戦略的目的や、彼がモスクワと北京との協力を深めようとする原因や、フィリピンにおけるアメリカ政策の失敗や、オバマとドゥテルテ間の緊張した対話についてだった。ワシントンの命令に逆らう、そのような状況からあり得る結果は、はっきり予測できていた。
 
ドゥテルテは、多くの政治家と違って、有権者への公約を守り、彼の前任者連中とは対照的に重要な変化を実現してきた。ドゥテルテは、ワシントンとの歴史的なつながりを絶つことはせず、中国との、更にある程度はロシアとの、本格的な実り多い対話を始めて、フィリピンの可能性を広げることを選んだ。南沙諸島にまつわる紛争は、厳しいやりとりを含め、マニラと北京を離反させ続けているが、ドゥテルテも習近平も、外交による解決のみが可能な選択肢だと繰り返し述べており、この地域の状況は進展し続けている。これは、ワシントン軍-産-諜報機関にいる主戦論者の介入路線とは決して一致しない。アメリカが選んだ同盟国、この場合フィリピンが、仕掛け役になることに同意する限り、南沙諸島は、中国とアメリカとの対決の要となりうると、アメリカ人専門家や戦略家たちは見なしている。ドゥテルテはアメリカの狙いをはっきり理解している。この文脈でその狙いとは、特にアジア地域で、アジアにおける北京の政治的、軍事的、経済的拡大を封じ込めようという死に物狂いの取り組みで、あらゆる同盟を中国に対する武器として利用するということだ。フィリピン大統領は、アメリカや日本など外国利益のために、フィリピン国益を犠牲にするつもりがないことを明確に示している。
 
ドゥテルテは、アメリカ支配層権益にとって、アジアにおける本当の危険人物だ。過去12カ月間、彼は公約を文字通り実行してきた。それは国内のテロ組織に対する戦いの強化、麻薬密売に対する戦いの強化、北京と、更には最近のプーチン・ドテルテ会談に見られるように、モスクワとの新たな外交的つながりである。
 
ワシントンとの対立の兆しは、既にオバマ大統領時代から明らかだった。マニラをワシントンとの正面対決に至らせた経路は三段階だった。最初は、ドゥテルテのオバマに対する厳しい言葉と、アメリカ国務省の当惑した対応だった。次は、テロ細胞と麻薬密売業者に対する作戦と、人権保護国際的組織や、EUやアメリカを含むいくつかの政府への抗議だった。そして数カ月のうちに、いつものマスコミ操作と歪曲テクニックを使って、ドゥテルテは傲慢で、慣例に従わない大統領として通るようになり、アメリカ・マスコミの一部によって、残虐な殺人者として描かれるようになった。
 
数週間前、フィリピンの解体作戦は本格的に第三段階に入り、インドネシアとマレーシアから、ダーイシュをフィリピンに潜入させ、現地テロ集団と連携させた。ワシントンはドゥテルテに対する希望を全く無くし、中東や北アフリカやアフガニスタンなど、アメリカ権益に敵対的な国々で行ってきたように、フィリピン国内で永久の混乱を産み出し続けることにしたようだ。
 
ドゥテルテは危険な状況に陥いり、国内の大きな圧力と、テロリストと野党間の邪悪な同盟という噂まであらわれた。フィリピンが直面している現在の国内の混乱は、最近の諸動向とともに、外的、内的両方向から働いている複数の力の合計のように思われる。
 
この二重対決の最終結果が一体どうなるのか知るにはまだ早過ぎる。ドゥテルテは、まず彼の反対者たちからの国内圧力に抵抗して、連中を片付ける必要がある。そうすることで、彼はテロリストの危険に注力し、拡散を抑えることが可能になる。
 
シリアにおけるダーイシュとアルカイダ勢力の敗北と退却で、多数の工作員やテロリスト連中を、世界の他の地域に移動させるために、アジアが次の標的とされたようだ。フィリピン治安部隊が、テロリストを孤立させ、将来の危険に迅速に対応することが極めて重要だ。シリアとイラクでは、テロ攻撃に対する当初の反撃の遅れが、タクフィール主義者が当初の優勢を勝ち取るのを許し、そのため防備を構築させてしまい、連中を駆逐するのが困難になった。
 
無数の噂がシリアとイラクのテロリスト救出・撤退作戦に関して報じられている。テロリスト連中が送りこまれた場所を正確に知ることは困難だが、このネットワークに注がれる金の流れを追えば、全てサウジアラビアにまで遡ることができる。パキスタンを経由してアフガニスタンで既に見られたパターンで、リヤドに資金提供されたテロリスト連中は、いずれもワッハーブ派とタクフィール主義同調者から金をもらっており、マレーシアとインドネシア経由で、フィリピンに到着したのだろう。
 
特記されるべきことは、フィリピンでの対ダーイシュ作戦開始時に、恐らく当然のことのように、ジョン・マケインがオーストラリア訪問中だったことだ。シリアでの出来事の場合には、トルコに、あるいはフィリピンの場合には、オーストラリアにと、ダーイシュが新たな作戦を開始する際、この上院議員が必ず近くにいるのは奇妙なことだ。
 
第二段階で、ドゥテルテは地域のあらゆる可能な同盟国が必要となろう。ワシントンは決めているように思われることは、万一ドゥテルテが国内の敵に勝利した場合、フィリピンを、中東における状況に良く似た緊張のエスカレーションに苦しめられるようするとだ。ワシントンの観点からすれば、もしある国を支配できないのであれば、連中はその国を破壊し、その後の混乱の中でも燃上するがままにしてよいということだ。
 
もしドゥテルテに、支援を求める賢明さがあれば、北京がフィリピンの治安確保と、テロリストの脅威解決に向けて支援することが重要だ。
 
アメリカの陰の政府は、アジアに中東の混乱の種を広める好機と見ている。狙いは二つある。まず地域における北京の役割とつながる経済的、政治的発展の阻止と、次にテロと戦うためだといって、地域におけるアメリカの軍事駐留を正当化することだ。トランプ大統領は、この数日間、アメリカが“マニラの状況を観察し続けている”ことを強調している。
 
私が前回記事で報じたように、サウジアラビアとイスラエルとアメリカ間の合意が、最初の結果を出している。つまり連中のテロリストの一部を中東、特にシリアとイラクから、東南アジアや中央アジアの国々にさえ移動させる第一段階であることだ。この点で、トランプと陰の政府は、両者の戦略的目標をいかにして実現するかについて、共通の見解を持っている。トランプにとっては、中東のテロリストを打ち破り、公約を守った大統領というイメージを獲得することになる。そして陰の政府にとってはもともと、使える限りのあらゆる手段を使って中国封じ込めに向けた取り組みを行うということだ。テロは使える多数の手段の一つであり、この文脈で、テロリストを(イラン-ロシア-シリアとイラクが、タクフィール主義者連中を壊滅している)シリアとイラクから移動させ、連中をアジアに移転するという合意は全員の希望と一致することになろう。
 
この邪悪な協定こそが、現在、フィリピンが直面している多くの問題の根源のように見える。状況が展開するにつれ、北京とマニラ間の外交的な動きを観察することが、ドゥテルテが混乱からフィリピンを救うために、どのような進路を選ぶのかを理解するのに極めて重要になるだろ。
 
Federico PIERACCINI:彼は独立フリーランス作家で、国際問題、紛争、政治、戦略を専門           とする。
 
記事原文のurl:https://www.strategic-culture.org/news/2017/06/08/path-hell-daesh-philippines-us-project.html
 
       
                    
新見コメント1どう翻訳したらいいのか
 現在世界で頻繁に起こっているテロについて翻訳しようと思って、いろいろ読んで訳してみました。特にフィリピンのテロについて、しっかり書かれたものを見つけることができずにいたとき、「百々峰だより」2017.6.13をヒントにこの記事を見つけることができました。
 しかし、この記事は「マスコミに載らない海外記事」2017.6.10で既に翻訳されており、私がサイド翻訳し直すまでもないと思いましたが、貴重な翻訳なので、あえて再翻訳に挑戦してみました。
 
再翻訳の狙いは、私もこの「マスコミに載らない海外記事」のサイトをいつも呼んで貴重な記事を読ませていただいていますが、その和訳を読んでいて、どうしても頭が付いていけないことがしばしばあるからです。どうして読みづらいのか、その原因を探ろうと再翻訳を試みたわけです。
 
和訳の読みづらさの第一の原因は、英文を後ろからたくし上げて訳すため、非常に長い形容が続き、何を言っているか分からなくなるからです。また形容する文が形容される語とあまり離れていると、これも理解しづらくなります。
 
そういうときは「立ち止まり訳」といって、一文を意味の区切れで立ち止まって、二つないし三つの文にして訳してみます。そうすると長い修飾語句(又は文)を短くすることができます。
 
そして英文の語順の流れに沿って、前から順に訳すようにします。そうすると、著者の思考の流れに沿って文を理解することができます。また前の文との論理的つながりも明確になります。特にその文にディスコース・マーカーになる語があった場合とか、前の文と対比される語があった場合は、英文の語順に沿って訳すことによって理解が助けられます。
 
このことはこの翻訳サイトの題名「寺島メソッド翻訳NEWS」からも分かるように、元岐阜大学教授寺島隆吉氏によって考案されたものです。私も氏の指導の下に寺島メソッド翻訳について書いた文章がありますので、いずれその文章を書き直してこのサイトにも載せたいと考えています。
 
新見コメント2フィリピンのテロは、ドテルテへの圧力
 この間テロが世界各地で起こっている。まずイギリスで、国会議員選挙前に、そしてイランで国会議事堂とホメイニ氏の霊廟とが攻撃され、フィリピンではミンダナオ島でイスラム武装勢力が刑務所に火を付けて囚人を解放するという襲撃で、島内に戒厳令が敷かれました。
 
 まずイギリスの場合は、BREXIT(イギリスのEU離脱)と国会議員選挙の圧力を加える意図があるかも知れない。つぎにイランのテロは、欧米がイランを打倒しようとしていることからの圧力として起こされたテロだろう。ところがテロはアジアにも拡大してきて、フリピンのミンダナオ島で戒厳令が敷かれるまでにいたっている。これは明らかにドテルテ大統領がアメリカが敵視する、中国・ロシアと接近して、南沙諸島をめぐる中国包囲網計画をドテルテ大統領が台無しにしているので、ISISを使ってフィリピン国内を不安定化し、ドテルテ大統領を追放しようという計画だろう。そんなことを考えながら、資料を漁り、コメントを書こうとしていたら、時間が経ってしまいました。
 
今回の翻訳はFederico PIERACCINI「地獄への道:フィピン国内のダーイシュはアメリカのプロジェクトStrategic Culture Foundation2017.6.10です。いくつかフィリピン情勢について翻訳してみたのですが、この英文が最も明確に書かれていたので再翻訳をしました。
 
そしてこのフィリピン情勢をさらに明確に位置づけて書かれた文章が「百々峰だより」のブログにあったので、以下に引用しておきます。 
 
ブログ<百々峰だより>より           http://tacktaka.blog.fc2.com/
 「戦争は国家の健康法である」その3
 ところで、上記のブログ読者のもうひとつの疑問は「それとサウジアラビアの動きも不穏です。アジア各国訪問と、フィリピンやアフガニスタンの不穏な動きが関連しているようで、怖いです」というものでした。
 いまISISが、ミンダナオ島マラウイ市を占拠してフィリピンを第2のシリアにしようとする動きに出ていることは(そして裏でサウジを使いながらそれを支援しているのが、アメリカだということも)、この事件が起きたのが、ドゥテルテ大統領がロシアを訪問し、プーチン大統領会談している最中だったことでも分かります。
 ドゥテルテ大統領が、アメリカによる中国封じ込め政策に従わないで、急速にロシアに近づきつつあるのを、どうしても阻止しなければなりません。そのための最上の政策がフィリピンを不安定化させることです。その片棒を担いでいるのが相変わらずサウジアラビアです。この間の事情については下記の論考を御覧ください。
 
* Path to Hell: Daesh in the Philippines is a US Project
「地獄への道: フィリピン国内のダーイシュはアメリカのプロジェクト」
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2017/06/post-0557.html(邦訳)
https://www.strategic-culture.org/news/2017/06/08/path-hell-daesh-philippines-us-project.html(原文2017/06/08)
 
 アメリカにとっては、中国やロシアに近づきつつあるフィリピンを不安定化させることは、中国封じ込めにとっても好都合ですし、フィリピンの内乱が続けば武器の販路がますます広がるわけですから、まさに一石二鳥です。
 ところがここでアメリカはさらなる高等戦術に出ました。フィリピン政府を援助しISISと闘うためと称して特殊部隊をマラウイ市に送り込んだのです。しかしドゥテルテ大統領は「アメリカに助けを求めた覚えはない」と述べています。
 
* Duterte claims ‘never approached’ US for help in battle against Islamist militants
「ドゥテルテ大統領いわく、イスラム戦士に対する戦いで『アメリカに助けを求めた』覚えはない」
https://www.rt.com/news/391843-duterte-us-special-forces-marawi/ (11 Jun, 2017)
 
 シリアでは「ISISと戦うため」、アフガニスタンでは「タリバンと戦うため」と称して、アメリカは軍隊をシリアに侵攻させ、アフガンでは15年以上も駐留する戦略に出ています。同じことをフィリピンでも狙っているのでしょう。
 このようなアメリカのやり方を見ていると、勝手に他人のコンピュータに入り込んで頼みもしないのに「Windows10」に変えてしまったマイクロソフトを思い出してしまいました。おかげでWindows7を使っていた私は、大変な被害を蒙りました。
 自分の利益のためには手段を選ばないアメリカ流の戦略・戦術は、どこの分野でも共通なのではないかと思わされた次第です。
 
<註> フィリピン大統領ドゥテルテ市の関連発言には次のようなものがあります。
* ‘West is just double talk, I want more ties with Russia & China’
「西側の言動はまさに二枚舌だ。だからロシアや中国と手をつなぐ方がよい」
https://www.rt.com/news/389105-duterte-west-russia-visit/(21 May, 2017)
* ‘US, EU meddle in other countries & kill people under guise of human rights concerns’
「米国もEUも、人権を口実に他国に干渉して、人殺しをしている」
https://www.rt.com/shows/rt-interview/389163-philippines-duterte-interview/(22 May, 2017)